オフ会

 大人になると若い世代に自身の経験を伝えたいという欲求が生まれてくる。なのでこのブログを見ているコミュ障の卵達には、僕という先人のコミュ障体験を眺めそれぞれの人生の参考にしてくれればと願うところである。勿論人生はケースバイケースで全く同じ環境ということはあり得ないのだが、一つのサンプルとして情報を得ることは意義のあることではないだろうか。今日はここに、「コミュ障が大規模なオフ会に参加するとどうなるか」というレアなサンプルを記そうと思う。

 

 もう3年以上前のことになる。僕はニコニコ動画のイベント(そこそこ大規模なホールでのライブイベント)の打ち上げ的な会合に行くことになった。経緯はもう思い出せないのだが、そのライブイベントを観に行くという事をブログだかなんだかに書き、それに対しライブイベント出演者のRさんがメールで打ち上げに誘ってくれた、といったものだったかと思う。(互いに投稿した動画は視聴したことがある、くらいでそれまで特にRさんとはネット上でも交流は無かったと記憶している)

 

 僕は一人でライブを見に行き、ライブ終了後、ついに打ち上げ会場に向かう。当然ここでオフ会バージンの僕に極度の緊張が襲った。ただでさえ人見知り系コミュ障なのに、顔見知りが一人もいない100人規模のパーリーに参加するなど余りに無謀だったのではないか。しかし今更引き返せないので打ち上げ会場の扉を恐る恐る開ける。

 

 失敗した。オフ会バージンの僕は出だしで失敗した。一番だったのだ。百人規模の会合で、会場一番乗りだったのだ。持ち前の真面目さが災いした。待ち合わせには遅くとも10分前、基本的には30分前には着くようにするというコミュ障特有の無駄な真面目さが災いした。幹事さん達の「え・・・もう来たの?」「どれだけ意気込んでるだよ」「てゆーかオマエ誰だよ」という視線を感じながら、広い会場の端に座りモジモジと所在なく過ごすしかなかった。

 

 やがて人が集まってきた。僕は大テーブルの端に座っているが、その席も徐々に埋まってくる。面識のある人は一人もいないし、僕を認識している(会った事は無いけど)唯一の人物であるRさんはまだ来ていない。そして乾杯が始まる。僕の大テーブルには、「踊ってみた」というカテゴリのグループが座っているようだ。よりにもよって、ニコニコ動画において最もテニスサークルに近いと思われるカテゴリである。前の席の男子が、僕と乾杯をしてくれ、「どんな動画投稿してるんですかー?」と聞いてくる。テニサーである。初対面にも臆さないこのノリ、完全にテニサーである。名の知れた投稿者でない僕は「え、あ、い、いや、まあ、とと投稿はしてますけど、そんな、あんまりあれなんで、コポォ」といった感じで答えたと思う。それだけで僕のコミュニケーション能力は十分に正確に伝わったのだろう、もうその席で誰からも話しかけられることはなく、僕は隅っこの席でビールをちびちびと飲んでいた。ビール嫌いだけど。

 

 それからRさんが到着し、僕を呼んでくれた。テニサー席から解放され、僕はRさんの前の席に座った。ここでも勿論持ち前の人見知りを全開にし、Rさんの話に一言二言言語を発するのがやっとで、僕からまとまった量の言葉を提供することは最後までできなかったと記憶している。幸いなことにRさんが「相手が大人しい人間でもそれを指摘せず顔にも出さず陽気に話してくれる」という稀有な人物であったため僕は居心地の悪さはさほど感じなかった。しかしRさんは有名投稿者であるので、100%僕が囲う訳にはいかず、Rさんが他の人と話している間に僕は周囲を眺めオフライン会合の雰囲気を観察し、そしてその圧倒的な社交界の喧騒に「彼等はこのような社交パーリーを何度も経験しており、そして当たり前のようにその世界に馴染んでいる。このコミュニティやイデオロギーは想像以上に僕とは隔絶されており、オフ会バージンには到底入り込めない領域なのだ」ということを肌で感じることになった。ただこの時もう一つ幸運だったのは、ライブスタッフで僕の投稿動画を知っている人がおり、少し同席し会話をしてもらい場を繋ぐことができたことである。このように僕という名のコミュ障とコミュニケーションを取ってくれる人はいい人であることが多いということも実感した。博愛精神の持ち主でなければ辛抱強く僕と一緒に居てくれる訳がないので、それは自然なことであるといえるだろう。

 

 そして宴が終わった。店の入り口の前に人が集まり、二次会の話をしている。僕はHP、SP(社交ポイント)共に殆ど残っていなかったため、毅然と「あ、あの、電車、とかが、遠くて、時間が、なので、駅に行きます、ので、おおお疲れ様でした、コポォ」といった事を言って100人規模の社交界から一人っきりで帰路についた。しかも今でもはっきり覚えているが、方向を間違えて闇雲に進んだため、結局引き返し店の入り口の前をもう一度通らざるを得ず、まだみんな店の前で喋っていてすごく気まずい思いをしたりした。ここでヒョウキンな人であれば「道間違えちゃったー」とか言い放ってみんなも「まったくとてもヒョウキンだなー!」と盛りあがるのだろうが、僕にそんなヒョウキンさは無いし、勿論誰も僕に気付いていなかった。

 

 そして宴の中でRさんが「M曲で替え歌のコラボできたらいいですね」と言ったことを真に受け、帰りの電車の中で替え歌を作りすぐにメールを送ったというのも、今思えばコミュニケーションに慣れていないコミュ障ならではの残念エピソードといえる。それはオフ会バージンによる「一回寝ただけなのに恋人ヅラしてお弁当を作ってきた」的な哀しい純情だったのだろう。

 

 こうして僕のオフ会潜入は終わった。勘違いしてほしくないが、ここで言いたいのは「コミュ障はオフ会に行かない方がいい」という事ではない。僕はただ事実を記しただけで、ここからどんな教訓を感じ取るかはあなた次第なのである。

  ゼロと1の違いはコミュ障にとっては天と地ほどの差がある。コミュ障は調べてここにしようと決めて行ったお店でも、初めてのお店だと入り口前まで行っても勝手が分からないと緊張で踏み込めず結局引き返しいつも行っている店に入ったりするものなのだ。だからこのオフ会参加も次に繋がる経験であったといえるかもしれないのである。まあその後3年間次のオフ会の機会が訪れることはありませんでしたけど!

 

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